応援初日の合流と、ちょっとした雑談と?
著者:高良あくあ


 そういうわけで、インターハイ一日目――いや、違うな。一日目は総合開会式があったらしい(俺達はそっちには出なかった)から、二日目になるのか?
 俺達……俺と部長、紗綾、そして海里は、とある陸上競技場に来ていた。

 ちなみに交通費は結構かかったのだが、何か部長が気前良く全員分出してくれた。
 結構な額だと思うんだけどな……曰く、講演とかでそれなりに金は稼いでいるのだそうな。だったらこの間のアイス奢り地獄は止めて欲しかったと心から思う俺である。

 ……と、陸斗発見。近くには瀬野さん達吹奏楽部もいる。
 陸斗に声をかけながら近付くと、向こうも俺達に気付く。

「おー、悠真も海里も遅かったなー! 秋波達なんて一時間前には来てたぜ?」

「そりゃ、吹奏楽部は練習とかあるだろうからな……」

 応援だけの俺達と一緒にしないで欲しい。

 と、気付くと紗綾が吹奏楽部の方に行って、瀬野さんと話をしていた。
 ……うん、女の子同士の会話って、見ていて和むよな。
 話をしている人間にもよるけど、紗綾と瀬野さんみたいに可愛くて性格も良い子だと、本当に心が落ち着く。それほど色恋沙汰に関心が無くても、彼女のいない男子としては当然の反応だと思う。

「ねぇ聞いてよ紗綾、応援は陸上の種目ごとに分かれて行うことになっていたんだけどね、あたし達短距離の担当なの!」

「えっと……ああ、羽崎君は短距離でしたっけ」

「そう、だからずっと応援出来るの! ちょっとここら辺は先輩達次第だから心配だったんだ。ほら、陸斗達から離れたところだと、陸斗の応援どころか競技を見る事も出来ないじゃない?」

 瀬野さんが言った通り、陸斗は短距離の選手で、しかもかなり早かったりする。
 特に百メートル走だったか。中学時代は全国大会の常連で、三年の時は大会新記録すら出したという、何気に物凄い奴なのだ。

 陸斗が一年であるにも関わらず当然のようにインターハイに出場している理由はここにあったりする。
 聞いた話だが、陸上部に入っているような人間には陸斗の実力は知れ渡っているらしい。陸斗が彩桜学園の高等部に入学すると分かったときは、陸上の強豪校が泣いて悔しがったとか。

 ……ちなみに陸斗が彩桜に来た理由はと言うと、俺と海里が彩桜を希望したからそれに合わせたというかなり安いものであるが。

「そういえば秋波、羽崎とは上手くいっているの?」

「ああ、師匠――じゃなかった、夏音先輩。それはもう、バッチリですよ!」

 部長の問いに、笑みを浮かべて答える瀬野さん。……一部気になる単語が聞こえたが、そこはスルー。

「秋波ちゃん、教室でも羽崎君の自慢ばかりですしね」

「自慢するに決まっているじゃない。……あ、そうだ、そういえばちょっと聞いてよ紗綾! 先輩も聞いてくださいよ、この前のデートで陸斗ってば――」

 話のネタにされている陸斗に目を向ける。……海里との雑談の真っ最中で、女子の方は気に留めていないみたいだ。

「えぇっ、秋波ちゃん、それ本当ですか!?」

「意外とやるのね、羽崎って。……その先の過程まで押し進めなかった辺りはまだまだだけど」

「その先の過程って……それ、学校とかにバレたら大問題じゃないですか!? 流石にそこまでは無理ですよ!」

「でも、それでも秋波ちゃんは十分羨ましいですよ! 私なんてすぐ傍に物凄く強力なライバルがいるんですよ!? そのせいか分かりませんけど、本当に私なんて相手にされていないような錯覚すらありますし!」

「あら紗綾、ライバルって私のことかしら?」

「それ以外に誰がいるんですか、部長さん!」

 女子の方は白熱している。
 ……ちょうど良い、俺も海里と陸斗の会話に混ざろう。これ以上聞いていたらまずい気もするし。

「本当、女子って凄いよな……」

「ああ、悠真。お疲れ様」

「……いや、今回は聞いていただけだし、まだマシだな。この間のアイス奢り地獄の方がずっと辛い」

「お疲れ様って……アイスって、何の話だ?」

 陸斗が訝しげに首をかしげているが、そこは俺も海里もスルー。
 ……お前もこの話は教室で聞いていたはずだ、陸斗。

「で、一体何の話をしていたんだ? こっちは」

「何と言われても……普通に雑談だよ。とりあえず休みに入る前の実力テストの話とか」

「ああ、あれか。結構難しかったよな、何とかいつも通りの成績はキープ出来たけど。海里どうだった?」

「僕もいつもとそんなに変わらなかったよ。あ、ちょっと下がっていたかな?」

「へぇ、珍しいな」

「自分の勉強と並行して陸斗の勉強も見ていたからかもね」

 その言葉を聞いて陸斗の方に視線を向けると、馬鹿は目を逸らす。

「で、海里の成績を下げてまで勉強した陸斗はどうだったんだ?」

「………………お、俺もいつも通り」

「お前のいつも通りは最悪だろ」

「酷ぇ!」

「でも、事実だよね。一教科で十点もいかないだろ」

「海里まで!? いくら俺でも、運が良ければ十点くらい取れるっつーの!」

「運が悪ければその程度も取れないってことだろ」

「運というより実力と努力の問題だよね」

「マジで酷ぇ!」

 陸斗が叫んでいるが、無視。……よく彩桜に合格出来たよな、コイツ。
 
 何で俺はこんな奴と友達やっているんだろうと疑問に思うこともあるが、そこら辺は結構深い事情があったりする。
 簡単に言うなら、俺も海里も、このお人好しな馬鹿に救われたのだ。色々あって物凄く落ち込んでいた時期に、何も事情を知らないはずのコイツに励まされるなんて失態(俺的に)をやらかしたのだ。

「……ところで陸斗、五分くらい前に集合かかっているけど良いの?」

「へ? ……って、良くねぇよ! 早く言えよ海里!?」

 陸斗が怒鳴り、物凄い勢いで走って行く。
 それを見て、紗綾と部長がこっちに来る。瀬野さんはいつの間にか吹奏楽部の集団の方に戻っている。

「羽崎君、どうしたんですか?」

「集合だってさ。……それにしても紗綾達、随分盛り上がっていたな。何の話をしていたんだ?」

「え」

 紗綾が一瞬硬直。赤面しているように見える。
 数秒の間を空けて、紗綾はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「……男の人はずるい、って話です」

「何で!? どこをどうすればさっきの話から、俺がちょっとこっちの話に熱中した隙にそんな話になるんだよ!?」

「ふふっ、大丈夫ですよ、悠真君は優しいですし。ただ、鈍感なのはちょっとずるすぎると思いますけど。……競技始まりますよ」

「あ、ああ」

 応援席へと走って行く紗綾の後を追う。

 ……鈍感、か? 俺。



投稿小説の目次に戻る